キッド・夢みる宝石

「男の子みたいなカッコはやめなさい。
 ステキな女の子になるわよ、あなたは。
 間違いないわ、この私が保証するんだから!」

 そしてそのことばに従うように、少女は髪をほどき、雲のように白いドレスの裾を風になびかせながら、海のかなたに思いをはせる。
 再び「あの子」と出会う、その瞬間を胸に誓って。

 ……でもさあ、ゲーム中のキッドの「真っ赤な上下」にしろ「お下げ」にしろ、確かに「乙女」とは言いがたい服装かも知れないけど、ある意味あれはあれで、「女の子」にしか着ることのできない格好なんじゃないかと思うが、どうか。とりあえず、あんな格好をしてる男子がいたら、私しゃその場でたたっ斬るよ。あの露出の高さ!堂々たるミニスカの短さ!あの年頃の女子にしか許されないファッションだろうと思う、ルチアナ世代の女子であります。

 のっけからおとしてどうする。

 キッド……「トリガー」「ラジカル」「クロス」と連なる、長い時の旅路を結ぶ奇跡の少女。忘れがたい記憶と愛着を、盗めない思いを、たくさんの人々の胸に残して。
 或いは、光の当たる角度によって、きらきらと色あいを変えてゆく宝石のような。そのあざやかな多面性。まばゆい煌めきと、その光がおとす影。はるかな夢より生まれて、とどかぬ夢を抱く。無数の夢を殺して、ただひとつの夢をはぐくむ、罪深き無垢なる乙女……「夢みる宝石」キッド・ザ・ラジカルドリーマー。
 サブタイトルに「これ」をつけるのは、反則と知った上で書いています。しかし、他にことばが思い浮かばない……。

 キャラトークのシリーズで、彼女だけ最後にとっておいたまま、たいへんに時間が過ぎてしまいました。思い入れが深い分、際限なく長くなるのがわかっているだけに、なかなか手がつけられず……一番語りたいキャラクターだった筈なのに、一番最後、それもこんなに時間を置いてのアップとなりました。
 キッドについて語るということは、私にとっては、「クロノ・クロス」について語るというのと、ほとんど等しいような行為です。それぐらい、彼女は私のなかでおおきな存在になっていた。いつの間にか……。
 けれど、クロスプレイし始めたその時から、キッドラブラブ!キッド大好き!キッドに刺されたい!(ジインさんごめんなさい)と叫んでいたかというと……これがそうでもないんだな、実は。

 とにかく「クロノ」が戻ってきたこと、それが私には嬉しかった。加藤&光田ゴールデンコンビの、満を持しての最新作。しかもベースになっているのは『ラジカル・ドリーマーズ』……そのいちいちに私は興奮して有頂天になり、なりすぎて却って細部に目が行かないような状態になってました。発売日当日からの、熱に浮かされたようなファーストプレイ。その中で響く音楽の音色や、語られる台詞のひとつひとつが嬉しすぎて、実は個々の「キャラクター」には、全然目が行っていなかったという、一種の逆転現象。
 だからプレイ前の時点では──『ラジカル』を知る者として、「セルジュ」や「キッド」という名前の登場にわくわくしても──特定のキャラクターに思い入れを抱いていた訳じゃ、実は、なかった。キッドについても同じこと。
 ただ基本的に、私は女の子キャラ好きなので、どんなゲームでもヒロインはまず尊重します。1回めのプレイでは、なるべくパーティから外さずクリアする。そういう意味での「ひいきめ」はありましたけどね。特にキッドは、トリガーのサラの生まれ変わりな訳だし(もちろん「クロス」は「ラジカル」とは「別モノ」だって、ちゃんと認識してました。けど、このラインだけは絶対、変更点ないだろうという確信はあった)、あらゆる意味で作品のキモ、ツボの中核になるだろうという予感はあったんですが……。
 発売前の「デジキューブチャンネル」で、オープニング映像を見て歓声を上げていた頃には、だから逆に言えば、ある意味余裕はあったかも知れない。「時の傷痕」にあわせて、キッドがこちらを振り返り、手を差し伸べる……あのあたりの映像は、当時から絶妙のタイミングで、何度も何度もオンエアされていましたから、私も何度も何度も見返した。メロディの響きと、吸い込まれそうに青いあの瞳……これが「クロノ・クロス」なんだと、息詰まるような思いで眺めつつ、でもまだ私の前に「キッド」はほんとうの姿を現してはいなかった。私が見ていたのは、待ちに待ったゲームの中核に位置する「ヒロイン」の姿であって、「キッド」ではなかった。10年の時を、そして本来的にははるか1万年の時を超えて、わたしの前にその手を差し伸べてくれた、生きよとささやいた、あの少女ではなかったのだ……まだ。

 少し話が飛びすぎていますが。そう、ファーストプレイの過程というのは、突き詰めれば「わたし」の思いを宿した「セルジュ」が、キッドという少女に恋をしていく過程、それ以外の何ものでもなかったんだよなあ。
 風鳴きの岬で初めて出会い、あまりその意味も考えぬままに、仲間に入れる選択をした。そのままテルミナ入り、スラッシュルートで蛇骨館へ突入して……。
 意識しはじめは何だったかなあ。そう……戦闘中のアクションが可愛かったんだよねえ。

 ……馬鹿だ。
 なんかさー、「あの台詞がよかった」「あのシーンにぐっときた」とかいう、きっかけらしいきっかけはないんかい!と、記憶の底をさらってはみたんですが、思い出せるそういう「ポイント」がないんですよ。ツボなポイント(「ヒドラ毒からの復帰」とか「水龍の島」とか)は全部、「既にキッドに惚れてから」起こった出来事で、実際それでもう立ち直れないほど惚れ込んじゃう結果になったんだけど……最初の最初、「この娘良し!」と思った地点となると、どうにもわからない。
 けどねえ。気がついたら好きでしたよ。キッドを外さないかたちでプレイをし始めて、あんまり戦闘システムも理解しないまま進行してて、キッドに物理攻撃させて、セルジュにターン移して、キッドに「スティール」使わせて、セルジュにターン移して、またキッドの攻撃して、レベルためて「ボマー」撃たせて……あれ、なんかやたらキッドのアクションばっかり見てるという。重症。
 おかしいのは、普段他のRPGでは「盗む」系の技があっても、ほとんど利用しない(少なくともファーストプレイではまずやらない)この私が、やたらめったら「スティール」ばかり使っていたという。気がついたら。おかげで序盤のエレメントには、全然不自由しなかったんだけどねえ、何か調子がヘンだなと。その辺りから始まったんですよね、キッド狂人生が。
 でも実際「スティール」はアクション、めちゃくちゃ可愛いよねえ!成功した時の得意げな表情はもちろんですが、失敗した時に「ちッ!」って感じで地面蹴るじゃない。あれが!あれが!!あのキックにわたしのハートも蹴られてしまったの〜!(←馬鹿な上に表現が古すぎベタすぎです。)
 何で他のRPGで「盗む」やらないかって言うと、「失敗」して1ターン無駄になるのがやだ、という貧乏性ゆえなのですが、キッドの場合は失敗しても良し!というかむしろ失敗して良し!!失敗してあのキュートなアクションを眺めつつ、スタミナ切れで敵にターン回って強烈な攻撃が来て瀕死だ大ピンチになりつつキッドの「膝に手をつき肩で息」を眺めてなお可愛い〜!と相好を崩すのが、キッドファンの心意気というものです(断言)。

 ……こんな調子で書いてたんじゃ、いつになっても終わらんがな。

 第一印象は、とにかく「前向きで生命力の強い少女」という感じでした。自信家、強引、口よりも手が出る乱暴、そして弱いもの・いじめられているものを見過ごすことのできない義侠心。何つーか、おとなしい巻き込まれ型キャラのセルジュよりも、ある意味そうとう「漢前」だよね。
 明るい、さんさんと降り注ぐこのエルニドの太陽のような、力強い少女。けれど……彼女の横顔に、ふとつきまとう陰のような何か。或いは、この上もなく不吉な予感。青白い光の中に、ゆっくりとくずおれて行ったあの情景の意味は。
 この先、「自分」は、キッドを殺すことになるのだろうか。あれは未来の予言?それとも……?

 序盤でキッドに惹きつけられる要因のひとつに、あの冒頭の「夢」があるのは、間違いがないだろうと思います。というか、おもてむきではあの「夢」のことは、夜の闇に押しやって、忘れたふりで楽しく旅をしている。力強く明るいキッド、それこそ「殺しても死なない」ような彼女に、半ば引っ張られるような勢いで、テルミナの街並みや蛇骨館を駆け抜けて行く。きらきら輝く太陽の少女と一緒にいると、自分が今、別の世界……既に「自分」がうしなわれている世界にいるのだという、その痛みすら忘れてしまいそうになる。
 けれどそうして駆け抜けながら、頭の隅にこびりついて、消すことのできない情景がある。
 自分はいつか、そばにいるこの少女を殺すのだろうか?そこはかとない不安。あるいは恐怖……それも、逆転した。「自分がひとを殺すかも知れない恐怖」よりも、「キッドがどこかで喪われる」こと、つまり自分がキッドを喪うのかも知れない、という恐怖の方が強い自分。あきれるほどのエゴイズム。
 きっと彼女とは、どこかの時点で別れるべきだ。自分と一緒に旅をしていたら、どこかで自分は、彼女を殺すかも知れないのだ。キッドをほんとうに大切に思うのなら、おそらくそれが一番「正しい」選択であったはず。
 ……それでも、キッドと「共に行く」ことを選んでしまうセルジュ、というところに、セルジュ×キッドの関係性を思う上での、重要な手がかりがあるように思います。

 だから、ガルドーブでヒドラの毒にキッドが倒れた時に、セルジュが迫られる選択としては、「どうしようもない」と答えるほうが、本当はキッドの為なのかも知れない、と思ったりもします。いや、人のとる選択に「正しい」も「正しくない」も、ないんですけど。あるのは厳然たる「結果」だけなんですけど……。
 ただね、もしもセルジュの見た夢が本当に、予知夢であるのなら……キッドが瀕する一番の危機は「セルジュ」なのだということになる。ヒドラの毒ではなく。ならばこれを機に、自分はキッドのそばを離れた方がいいのかも知れない。少なくとも、「セルジュがキッドを刺す」未来だけは、これで回避できるのかも知れない……。
 結果としては、たとえヒドラの体液を奪取しなくても、再びキッドを仲間にせずとも、やっぱりキッドは古龍の砦にやってきてしまい、予知夢は逃れようのない現実に成就してしまうのですが。

 死の少女。
 キッドの抱えるもうひとつの一面……。予知夢のなかの、刺されて倒れた血の気のないその表情に発端を置くそのイメージは、古龍の砦の「現実」を境に、わきたつように大きく膨れ上がって来る。
 死をもたらす少女……悲しみの追撃者。「凍てついた炎」の解放者。時喰いの預言者。絶望のままに世界を闇に呑ませる、遠き王国の最期の末裔、その転生体。
 そして、死を悼む少女……炎の記憶に今もなお身を焦がし、復讐と哀傷、そしてなにより、孤独の悲鳴に常に泣き続けている、ちっちゃな、養い子のキッド……。

 影が濃ければ、光のあかるさはいや増す。あるいはその逆もしかり。キッドの放つ「光」が眩く力強いほど……その暗部もいっそうに暗い。そしてそれは、彼女自身が自覚し得ない、人格の奥底に普段はひそんでいる。それがまた、キッドという存在の不安定さを強めてしまうのですが……。
 「水龍の島」における、キッド本人による過去の吐露と、やや露悪的な「悪党宣言」は、あれは実はまだ、自分自身の抱え持つ「闇」の濃さに、自分で気がついていない状態での発言かと思います。表層的、というか。
 世界は残酷であり、それゆえに自分も牙を研ぐ、という。復讐を成し遂げる、と誓う。……でもここまでのキッドの行動というのは、やっぱりどっか「甘ちゃん」というか、自分で言ってるほど残酷になれていないんですよね。蛇骨館での、リデルを挟んでの対峙は象徴的ですが……。そもそもキッドがエルニドに来たのは、ご当地の「凍てついた炎」の情報を得る為&ヤマネコ追撃が目的だったはず。つまり、最初から自分ひとりでも蛇骨館に乗り込むつもりだったと思うのですが、なのについつい、セルジュをカーシュたちから、助けてしまうんですよねえ。
 これからコトを構えることになるであろう、蛇骨大佐の部下に対して、堂々名前名乗ってまで、いらん火種振りまく奴がありますか。おかげでこっちは助かったけど、「非情な盗賊」としては、かなりなポカだと思います。うんと好意的に解釈するなら、カーシュとセルジュのやりとりから、セルジュの存在が蛇骨大佐に対して何らかのプレッシャーになりうると踏んだ可能性も……いや、やっぱりちょっと無理があるよなあ。
 どうしても、ここぞというところで非情になりきれない、そんな自分自身の甘さに嫌気がさしている。それで敢えて、「非情でなくてはならないんだ」と自分を叱咤している。それが私の、「水龍の島」イベントの解釈です。孤児院焼失からこのかた、ひとりぼっちで生き抜く為には、確かに「きれいごと」だけではやって行けなかったのだろうと思うのですが(しかも舞台は、戦乱直後の大陸だし)、でも本人が心底見下げ果てているような「赤い幸せを手にしている奴ら」のような真似は、結局できなかったんじゃないかと思うんですよね。その為に何度かは、相当危険な目に遭ったりもしたんじゃないだろうか(助けた奴に裏切られたりとかさー、何か容易に想像つくんですが)。そのたび「やっぱりきれいごとじゃだめなんだ!」と自分を敢えて、歪めようとする。
 そうそう、あのあたりの述懐が、聞いていてとてもつらいと思ったのは、キッド本人はそんな「非情な奴」も、「非情な奴らが繁栄を極めて生き延びている」世の中じたいも、心底軽蔑し嫌っているのが、ありあり伝わってくることです。憎んでいるその対象に、自分も近づかねば生きてゆけない。そうしなきゃならないと思い込むまでに、追い詰められたキッドの前半生が痛い。最初っから「非情な人間<けだもの>」であれば、そんな悩みに陥ることすらなかっただろうに。残酷でないからこそ、残酷な現実を前に苦しむという、このジレンマ。

 そして……実はこの絶望、世界に対する軽蔑と絶望の底に、キッドの本当の「闇」が、かくされている。「自分が」残酷に生きるとかどうとかいった、表層的なところを飛び越えた闇の情念。本質にそぐわない生き方を強要される絶望、世界に対する失望そのものの中に、「もうひとりのキッド」をかくした闇の扉の、鍵がある。
 それは1万年のかなた、同じく世界に対する絶望を抱いて死んだ、ひとりの少女の記憶。時の闇の彼方で待つ……サラ・ジールの孤独なる魂、そのかけら。


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