アルフ・しかしてその実体は……?

 ある意味、クロスでもっとも多くの「議論」「推論」の焦点となった男・アルフ。それはやはり、あの「風貌」及び、ゲーム「ラジカル・ドリーマーズ」の存在ゆえのものだとは思うのですが。要は「彼が魔王?」疑惑。
 「トリガー」末尾で、行方不明のままの姉・サラを探しに出る魔王。その魔王が「ギル」と名乗って、「キッド」という少女に転生していたサラを見出すまでのストーリーが、「ラジカル」。そして「クロス」では、この「キッド=サラ」という設定をまんま踏襲してきた為、「それならば、魔王=ギルにあたるキャラクターも、クロスのどっかに出ているはず!」という期待が、いやがおうにも盛り上がってしまった訳です。
 そんで、フタを開ければ、なんかガタイのいい、青紫系髪の、先天属性黒(トリガーなら「冥」な訳だ)の、移動時には宙を滑って飛ぶ男が出てるという。しかもご丁寧に、「ラジカル」のギル同様、「顔の上半分を覆う仮面をつけている」ときたら、こりゃ誰もが「彼こそが魔王」と疑いを向けたくなるのは当然。
 私もこれは絶対!ギルに違いねえ!!と大期待していたのですが……ないんだよねえ、イベントが(脱力)。
 一応ね、凍てついた炎との対面台詞とか、占い婆さんとの賭けの結果とか(しかもこの婆さん、スプリガンを会わせた時の反応とあわせると、彼女が「魔族」であることがわかる仕掛けになっている。魔族の彼女が、そこまで怯える相手と言ったら……と、また推論したくなる構造なんだよなあ)、アルフこそが魔王なのだと、判断する要素がないわけではない。アルフという名前自体、各所で指摘されている通り、トリガーでのジャキの飼い猫・アルファドから由来する偽名なんじゃないかという説も出てきている。
 でもさ……ぶっちゃけた話、こういう細かいイベントひとつひとつを検証してても、どこか虚しさが漂ってしまうんだよなあ。というか、ファンが本当に楽しみたかったのは、彼の正体を探る為の微妙なアリバイ崩しなどではなく、彼が――運命に翻弄され続けたあの魔王ことジャキが、「クロス」のステージに移行した時、この物語とキャラクターたちに、どのように関わるか、ということなのだから。探し続けた姉との再会の時に、彼はいったい何を思うのか。何度目になるのかわからない、時間改変がもたらす世界の歪みを目の当たりにして、どんな行動を見せるのか。そして何より、大事な大事なサラ姉ちゃんの運命の男になっちまったぽっと出の野郎・セルジュを前にして、弟として何を考えるのか!!←私見度120%。
 それがね……諸般の事情もあるのでしょうが、結局はすべて、語られずじまいになってしまったというのは、すごく悔しいです。「ラジカル」と「クロス」では基本のテーマ自体が少しずれているので、もしも「魔王ジャキ=ギル=アルフ」というキャラをメインに出すとしたら、クロスの物語が現在のままでは、ちょっと通用しにくいのは確かです。かなり根本のところから、書き換えて行かないと成立しないとは思うのですが……それにしたって、つくづく、惜しいなと。

 そもそも「ラジカル」の物語自体は、テーマ的に曖昧な部分が多いんですよね。私は最初に「ラジカル」を見た時から、不思議に思っていたのですが……物語の語り手はセルジュ。夢の海に堕ちたキッドを助けたのもセルジュ。キッドにとっての「盗めない宝石」はセルジュ。なのに、ラストでギルがキッドを連れて行ってしまうんですよ。おーい、それちょっとズルくない!?と思わなくもないの。
 どのようなかたちであるにせよ「人が変化する」こと――成長、恋愛、戦いと勝敗、出会いと別れ――が、「物語」となるのである……と言ったのが誰だったかは忘れましたが(おい)、その説で行くと、「ラジカル」ってほんとのところは、「物語」になっていない気がするんですよね、ちょっと。
 セルジュがキッドに出会って、時間を過ごして、いろんな経験をして……けれどその関係性が、最後には「過去を取り戻した」という理由で打ち切られてしまう。サラである自分を取り戻したから、セルジュの元を離れて行くキッドというもの自体が、実は私には今ひとつ納得できないし、セルジュとキッドのかかわりを――内心どんな心情だったのかはわかりませんけど――絶とうとする(追うセルジュを留めようとするシーンがあります)ギル、という構図がね、あの姉弟がそのまま「トリガー」の過去へ向かって、ずり落ちていくような印象があるんです。そこらへんが、釈然としない。過去の為にあの場を逃げて行くのなら、「ラジカル」でのセルジュとキッドの出会いって、何だったんだろうとかさ。サラであるキッドに本当に必要なのはギル=ジャキであって、セルジュじゃない。セルジュはキッド=サラという人格の一時代を確かに支えはしたけど、その役目が済んだら、さよならされちゃうなんて。
 思い出は確かにいとしいものだけど、最初から思い出になる為に生きる人などいない訳で。せつない、うつくしさがある分だけ――きれいすぎる「嘘」にされてしまった感があるのです。あのラストシーンには。

 「ラジカル」から「クロス」へ、物語が作り変えられて行くなかで、テーマ的にもっとも修正されたのは、実は「セルジュとキッド」の関係性の、洗い直しなんじゃないかと私は思っていたりするのです。つまり、この物語はセルジュとキッドが「出会い、変化していく」物語なのだと。その末に別れがあったとしても……ラストシーンのキッドは海に再会を誓い、セルジュは「消せない記憶」を口ずさむ。そこにこの長い物語が語られた意義があるのだと。
 けど、こういう構造にしてしまうと、ジャキの存在というのは実は、余分な要素になってしまうんだよなあ(泣)。セルジュとキッドの物語、というのを確固たる柱にすると、失われた姉と弟の再会、というテーマは非常に絡みにくくなる。というか、そもそもあのふたりの「再会」というのが、それだけで1本の物語ができちゃうぐらい、一本柱として独立したテーマなんですね。それを「セルジュとキッド」の物語に入れようとすると、相当ややこしい泥沼の展開になるというか、キッドを挟んだ「過去」と「未来」の相克みたいな物語になりかねない。出会いよりも、むしろその後の対立の方が際立ってしまう。
 というのは、アルフ=ジャキが取り戻したいと思っているのは、結局のところ、弟である自分の存在を認識してくれる「サラ」な訳です。でも、自分をふたつに割ってしまったサラは、王女としての自分――ひいては、ジャキの姉であるサラという部分までもを、自ら否定してしまっている。否定の結果として、キッドがいる。
 セルジュというのはもちろん、「キッド」とかかわるものであって、彼からしてみれば、「サラ」の存在は本質的には、彼女の「過去」としてしか認識できないと思うんですよね。もちろん大元がサラであった事実とは、時の闇の彼方で対面しますけど、セルジュにとっての「彼女」は、この世界に生まれてきてくれた、キッドの方でしょう。
 ということは、物語をキッドとセルジュとジャキの三すくみにすると、キッドを挟んで「現在」と「過去」が対立する構造が生まれてしまうことになる。現在としての「キッド」を必要としているセルジュと、過去としての「サラ」を必要としているジャキですね。
 とりあえず、セルジュとキッドのボーイ・ミーツ・ガールを、きっちりとしたかたちで描きたいと思ったら、キッドの「過去」の部分を引きずっているジャキの存在というのは、極めて難しい位置付けになります。物語の構造をシンプルにする為には、ジャキは外さざるを得ない要素だったんじゃないかと。
 その選択は理解できるんですよ。「何を描きたいか」という視点で洗って行くとね、削らざるを得なくなるものもある。

 ところが、そうやってジャキの存在を外してしまうと、実は、サラ=キッドであるという位置付けそのものが、あんまし重要なものでなくなってしまう、気もするんですよね。もちろん前作との絡みがあり、行方不明のまま消えたサラ王女の「落とし前」であるという意味では、大事な設定ですけど、キャラクターの関係性としては。彼女が「サラである」ことにこだわれるのは、弟のジャキと、あとはせいぜい、理の賢者ガッシュしかいない訳です。ルッカでさえ、キッドを「サラだから」愛し育てた訳ではなかった。
 トリガーの記憶が薄れかけている多くのプレイヤーたちが、唐突に「キッドがサラである」という設定をつきつけられて戸惑った最大の原因も、ここにあるような気がするのです。もしも物語の全面にアルフが出て、彼が魔王であることが示唆されていれば……姉たるサラと、その背負った悲劇にまで、思いを至らせやすかったんじゃないかとは思うんですね。つながりがはっきりするし、あのおしとやかだった悲劇の王女が、男言葉の暴れ娘に変貌したドラマが、ジャキの視点から(ある程度)語られるものになるだろうから。
 そういう意味では、やっぱり何処かで魔王の存在は入れとくべきだったんじゃないかなとか……いろいろ考えてしまいますね。というか、そんな展開も見たかった気はするの。プレイヤーってワガママだよなあ。

 ここまで書いて来てなんですけど、そうそう、私は「アルフ=ジャキ説」をとっています(←今更……)。『クロノ・クロス設定資料集』でのデザイン画(P.114)が世に出て以来、「アルフ=魔王説」が、ある種あきらめにも近い感慨を伴いつつ、クロスファンの間で確固たるものになってしまった観がありますが……あれにこだわる訳ではなく、ね。
 だいたい「好きなように解釈せよ」と、製作者サイドから突き放されてるゲームなんだから、自分が「コレだ!」と思ったものを大事にすべきなんです。この件に限らず、他のところでも(「曲解」は良くないと思うが)。
 そうして、だから私も……ゲームをプレイして、何より単純に「気分」として、アルフが魔王なんだろうと思っています。そして、彼は「魔王」としての記憶を失ってしまったんじゃないかと。「知っててやってる」というのも、なかなか興味深いものがありますが、「凍てついた炎」との対面を考えると、やはり……。魔王ジャキほどの男が、記憶を失ってしまうというのも、ちょっと考えにくい状況ではありますがね(何はなくともサラ姉のことだけは、確実に記憶してそーな気もするし)。
 いろいろとその「理由」を妄想してみたりはしました。ひとつは、以前掲示板に書いたネタなんですが、クロノポリスのタイム・クラッシュに巻き込まれちゃった説なんかも、アリかなと。クロノポリスが1万年前の世界に吹き飛んだ時、1万年前の古代世界に戻っていたジャキも時空の歪みに巻き込まれて、1020年の世界に落ちてしまった。クロノポリスが過去に逆流して行く力の「反作用」に引っ張られた感じですね。幸い、2400年まで飛ばされることはなく、「途中」の時代に着地はしたけど、ショックで記憶を失った。トリガーの古代世界は1万2千年前なんで、2千年ぐらいのズレができてますが。←だめじゃん。

 それとは別のパターンとして――ごく最近、ふっと思ってしまったことがあります。サラを探し続けていたジャキがもし、彼女が「時喰い」となってしまった事実を知ったら、どうするのだろう。ガッシュとは別のルートで、独自に。魔族とコネクションがある訳だから、いろいろとルートはありそうな気がする。
 そんなことを知ったら、ジャキはたぶん、何としてでも時喰いにアクセスして、サラを解放しようとするはず。彼の場合、ガッシュのような迂遠な計画を立てるよりは、自分の力で挑む方を選ぶだろうから――大元のきっかけとなったラヴォス(1万2千年前の古代王国崩壊時より前の時点の)か、もしくは時喰い本体を、直接叩こうとするだろう。
 そうして、あるいは彼は、姉のサラと全く同じ道をたどってしまったのかも知れない。ただ一人で時食いに、運命に挑んだ彼は、敗れて、絶望する。その絶望は時喰いに喰われて、凍てついた炎の元に集う、多くの憎しみの感情のひとつとなった。けれどその瞬間に、自分の新たな「半身」を、あの世界に生み出した。唯一心を開く友であった「アルファド」の名を託した、もうひとりの自分――アルフという名の、新たな人格として。
 そんな可能性も、あり得なくはない気がする。トリガーで、ラヴォスを追いつめようとし続けたあの執念をもってすれば、姉をとらえる時喰いを狙って、時の闇の彼方へも堕ちるだろう。そしてもし闇に堕ちたとしても……それだけでは、終わらせないだろう。
 世界に残す、姉を救い出す最後のチャンス。可能性。それがアルフだったのかも知れない。本人は何も「知らされて」なくとも、思いはどこかで繋がっているのかも知れない。
 そしてもし、彼が「アルフ」を生み出せたのに、14年前のあの磁気嵐がかかわっていたとしたら?この世に新たな産声を上げた「サラ」の声が、闇に堕ちかかるジャキを呼び寄せたのだとしたら。お互い、そうとは知らぬまま……。
 キッドがサラのことを知らなかったように、アルフもジャキのことは知らないのだろう、たぶん。けれど彼は時の闇の彼方で、それと知らずに時喰いを解放する。それは本当は、かつてもうひとりの自分が愛した姉を解放することであり、そして同時に、同じ闇に眠ったもうひとりの自分自身をも、解き放つことなのだと……自分でも気付かないまま。
 交錯する運命。キッドと、セルジュと、ジャキの物語。何も語られないままに終わっているのだけど、思いを馳せれば、そんな奇妙な「つじつまあわせ」をすることもできるような気がする。

「こいつが、時の闇につながる、最後の扉か……。フ……。まさか、こんなことになろうとは、な。」

 彼は何処まで知っていたのだろう。とぼけていたようにも見えるし、本当に何も知らないようにも見える。最後の戦いを前につぶやくことばは、どちらにも、どのようにも解釈することができて、いっそう私たちを惑わせます。
 惑わされたままに、つらつらと妄想してみました。


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