『ICO』(プレイステーション2)

  その島は太陽のきらびやかな光を浴び
  はるか遠くの丘は灰色のマントを羽織る
  孤独な風が木々を揺らして囁く
  ただ独り、過去を目撃したもの


 今でも根強い人気を誇る、プレステ2用のアドベンチャーゲームです。そもそもは、発売当時に流れていたCMとその音楽が大変に印象的で……とりあえずサントラだけ買って喜んでいたら、たくさんのサイト来訪者さんから「ゲームも遊べ〜!」とめちゃめちゃ勧められる結果に。ここら辺りの経緯については、「架空的日記」にも書きましたが……なるほど、人に勧めずにはいられないような、何とも不思議な吸引力をたたえたソフトです。
 謎解き型の、軽いアクション要素をもったアドベンチャーゲームですが、難易度は確かに、それほどではないと思います。画面に見える世界のあれこれを、触れたり動かしている内に、何となく道が開けて行くような感じです。以前、CMか何かで「鎖から鎖へ飛び移る」場面を見て以来、アクション部分の難易度を非常に恐れていたのですが……これは、大丈夫!確かに最初は死にまくりでも、何度もやってればどーにかなります。「マリオ」も「ドンキーコング」も「クラッシュバンディグー」も、3面から先に行ったことがない私が言うんだから、間違いないっす!!
 セーブポイントがかなりマメに用意されてるところや、ゲームオーバー時に「やりなおせる」ポイントの親切さなど、遊びやすさにはかなり気を遣われている感じで、忙しい社会人にもぴったり。というか、お子様よりはどっちかっていうと、大人向けのファンタジーなのかも知れないとも思います。廃墟の城の雰囲気に、何処となくプレイヤーの古い思い出をかきたてられるような、美しくも恐ろしい独特の世界観。

 角の生えた主人公・イコは、古い時代の魔力を秘めた「霧の城」に、生贄として奉じられる。半ば廃墟と化した孤島の城をとりまく深い霧、その佇まいは、その名に恥じない圧倒的な存在感と美しさがありました。
 けれど私の印象に一番残ったのは、表題となっている「霧」よりはむしろ、風が吹く音、その折々の音色なのです。崩れかけた回廊や吹き抜けのテラス……風景が変わるごとに、新たな部屋に入るたびに、異なる音で風が吹く。
 ふるき「風の城」。そしてその風わたる庭に、壁に、染み入るような美しさで、光が揺らめきさしかかる……。
 ――それははじめにサントラを聴いてしまった為、あの主題歌の謎めいた歌詞に、私が強くとらわれてしまったからなのかも知れませんが。太陽のきらびやかな光を浴びた城に、風が見たものは何なのか。
 光と、影と。おりおり変わる風の音。何かを囁き告げているような、或いは人の世界になど、何の関心もないような……。

 物語は非常にシンプルで、しかもとても寡黙。全キャラクターの台詞をすべて書き出しても、表1枚で済んでしまうような単純なものです。その奥になにか、隠された長い長い物語があるようにも思える反面、実はそう小難しいものでもなく、本当にこれだけの物語……闇の支配がついえて、自由が取り戻される、これで充分にすべてを語り尽くしているのだという気もしています。
 要するに提示されているのは、「話」というよりは「世界観」そのもの。いかにも意味ありげな、とらわれた少女や、角のある彫像や、闇の女王などのキーワードだけが並べられていて、そこからどう鍵を拾い出し、どんな扉を開くかは、全くプレイヤーの自由な訳です。ファンタジーの世界設定的な方向へ物語を想像しても良いし(現在「週間現代」で連載されている、宮部みゆきのノベライズ版は、この方向で進んでいる感じ……小説としては妥当な手法だが)、束縛する母、闇なる存在の意味、角の象徴するものなどなど、キーワードを分析して、現代の社会へと何らか繋がるメッセージを読み出すこともできる。
 受け取り手に任せるゲーム、というのはこのところ、シナリオ束縛型ゲームが増える状況への反動としてなのか、ややクローズアップして捉えられる部分があって……その代表作として、「ICO」も数え上げられているように思います。「これぞゲームだ」みたいなね。ただ、一個人としてこの世界観を愛しむ、というのは判るのだけど、逆にその感情が行き過ぎちゃって、「シナリオ型ゲームへの対抗馬」みたいに祭り上げられちゃうのは……ちょっと、個人的にはいやだなあ。
 なんか、「このゲームのよさがわかるオレは通」みたいな、カルトの試金石みたいな存在にしちゃうのは、ソフトに対しても不幸な現象のように思えて仕方がありません。というか、実際そんな難しいソフトでもないと思うのね。世界観そのものが(ゲームとしてはともかく、ファンタジーとしては)格別に「目新しい」という訳ではないし、大仰に持ち上げるほど、「ICO」というソフトの実像からはかけ離れて行く気がする。
 ただもう、それぞれのプレイヤーがしんみりと、あの世界を味わえばいいだけの話であって……もちろん大半のプレイヤーは、そうやって楽しんでいる訳なんですけどね。近頃すこし、気になった。

 個人的には、ほんとに「雰囲気ゲーム」として楽しんでいた観が強いんです。闇の女王の思わせぶりな台詞とか、城が崩壊して行く中での少女の変貌とか、気になるポイントはいっぱいあったんですが、そこを敢えて掘り下げてどうこう……と考える意欲が、今回は何故か起こらなかった。見たままこう、受け止めて、それだけ。「それだけ」って言うとなんか投げやりめいて響きますけど、投げてるんじゃなくて、そのまんまなの。見て、ひびく、何かをそのままずっと胸の内に残している。そういうプレイ後感でした。
 ああでも、「ノノモリ」に関しては、2周目のあれは「意訳」というか、ヨルダのそんな「気持ち」で発せられたことば、ということであって、言葉の意味そのものは、何かもうひとつ別にあるような気がするんだよなあ。これもサントラ掲載の主題歌歌詞から思ってることなんですが(「ノノモリ」と「歌う」訳ですから……「あれ」のまんまだと、ちょっとヘンかも)。

 「悪夢のような」という表現は、プレイを勧めてくれた方のお一人がされていたものなんですが……あの、ふと沸いて出る闇の世界の「影」たちの怖さ、これは本当に圧巻でしたね。
 「突然」脅かしに来るものが、個人的に苦手という部分もあるのですが、とにかくあいつらがいつ出て来るのか、それがひたすら怖くて。ファーストプレイ、全体に追い立てられてるような感覚が、どうしても抜けませんでした。変に焦っちゃってる感じで、何かもう、てのひらにずうっと汗かいてるの。
 謎解きのためにヨルダと離れざるを得ない状況でも、一定時間を過ぎると「影」がさらいに来る。それがもう怖くって、びくびく無駄に行ったり戻ったり、ちーっとも謎解きが進まない。東の闘技場が、一番つらかったかなあ……滝を止めに行く仕掛けのところね。
 そんだけ警戒しても、何度もヨルダを連れさらわれてアウト……というのを繰り返していました。「石柱」のところの、長い鎖降りるのもつらかったなあ。焦りすぎてもたついちゃって、却ってタイムロス。ヨルダがさらわれてる目の前で、鎖の飛び移りに失敗して、いきなり自爆してることもよくあった。落ち着いてやれば、なんてことない場所なのにねえ。
 そういう意味では、私的にはプレイを「楽しむ(エンジョイする)」という感覚は、やや薄かったのかも知れません。美しい世界の風景にはとても「惹かれる」んだけど、それは決して明るい・楽しい感じではないなあ。稀にこのソフトを「癒し系」みたいに言うレビューも見るんですが、個人的には「癒し」の感覚とはほど遠いものがありました。

 ヨルダについて、イコについて……感じたこといろいろ、あるにはあるんですが、非常に漠然としていて、文章化しづらいものがあります。というか、する気ないんですけど文章化。まとめてしまうと、何かが違ってしまう気がする。
 はかなげな白い光、ヨルダの背中の、翼のあとのように広がる黒い陰、鳥かごの少女。曲がった二本の角。つないだ手。鼓動の揺れ、走るほどに強まるその感触……。
 光に浮かび上がる闇の城の中、吹き抜けてゆく風のように。通り過ぎうつろうたよりない感覚だけが、今もあのメロディと共に、どこかに響き続けている感じがします。


  その島は太陽のきらびやかな光を浴び
  はるか遠くの丘は灰色のマントを羽織る
  孤独な風が木々を揺らして囁く
  この謎を解くたった一つの鍵

             ――”ICO -You were there-” by Lynne Hobday


つれづれゲームレビュー / ラジカル・ドリーマーズの小部屋