「ひまわりとキッド編」シナリオリプレイ

煌めきの誘い

 伝説の至宝「凍てついた炎」を求めて、セルジュ・キッド・ギルの三人は、ヤマネコ大君の領地に忍び込んだ。
 鬱蒼と茂った、広大な森……赤い月の煌めく下、深く落ちる闇をかき分けて、進む一行。
 だがヤマネコの館が見えて来た辺りで、キッドが突然、足を止めた。

「おい、なんだ、アレ?」
 キッドが、目をすがめて右手の木立の奥の方を見やる。
「なんだかあそこだけ、明るいぞ」

「もうヤマネコ大君の領地のかなりふかくまで、入りこんでいる。ヘタにうごきまわるのが危険なことは、承知しているな?」
 と、ギルがキッドの脇にならび、キッドの視線を追う。
「…………」
 キッドは、森の奥をみつめたまま、無言だ。
「なにか感じるものでもあるのか?」
 ギルがキッドの顔に視線を移す。
 キッドの瞳がしばしギルに向けられて、やがてまた森の奥へともどされる。
「フ……、いいだろう……。
 オレたちを別の道が待っているというのなら、それはそれで面白い。
 行ってみるとしようか」

 何をその目に見たのだろうか……キッドは素早く、森の暗がりを駈けていく。
 後を追って、道を外れ、森のなかへと分け入っていくセルジュ、ギル。
 だが長く歩く必要はなかった。とある大木に目を向けたキッドが、嬉しげな歓声を上げる。彼女が目にした、あやしい光の源は――大木の上に留まった、金色のカブトムシ。

「黄金のカブトムシ!!!」
  いきなり叫び、大木に貼り付き登り始めるキッド。
 確かに金色に輝き、黄金のように見えるけど……。しかし、あの場所からよく気付く……。”よく”ではなく”欲”か?

 セルジュが一人で納得している間に、万事行動の素早いキッド、早くも樹上の人となっている。セルジュの身長の5.6倍もの梢に登って、カブトムシを捕らえようとしたが――瞬間、カブトムシは飛び立って逃げた。
 手が滑り、バランスを失って落ちるキッド!

「危ない!!!」
 ボクはキッドを受け止めようと飛んだ。
 キッドがクルクルと回転し始める。
 ヤバイ!!!
 一瞬、身の危険を感じ横に逃げる。
 ボクのいた地面に猫のように着地するキッド。もし、逃げなかったら、顔面を踏み潰されていたかもしれない……。
「キッド……」
「待て!!!オレのカブトムシ!!!」
 ボクの方を見向きもせずに、虫を追って駆け出すキッド。
 キッド……ボクを見て……。

史上最悪の被子植物

 「黄金のカブトムシ」を追いかけて、なおも走る三人。
 だが、森を進む彼らの前に現れたのは、目指すカブトムシではなかった。木々の空き地にぽつりと生えた、一本の……。

 ひまわり……かなぁ……。
 小さな日だまりに、背の高い植物が一本……。
 んん……誰が見てもこの脳天気なデカイ花はそれだろう。でも、夜のひまわりって、こんなに元気そうだっけ……。

 場違いなぐらい呑気に咲き誇るひまわりを、ただ眺めることしかできない一同。
 と、突然ひまわりの周囲に、濃い邪気が漂い始めた!ぎょっとして花を見つめなおしたセルジュは、そこにとんでもないものを見出したのだった。

 酒に酔ったようなトロンとした目に、紫色の長いまつげ……。高い鷲鼻に、厚いピンクの唇……。
 男が化粧したような顔が、ひまわりの大きな花に現われた。

 ……ソーゼツな不気味な顔、である。
 ひまわりを見つめて、思わず気分の悪くなるセルジュ。隣ではキッドが、腹を抱えて笑い転げている。
 ギルだけは反応が違った。笑いもせずに、ひまわりを見据える。

「こいつは……何だったか……ん……」
 ギルは目の前の物体に動じず、冷静に記憶を手繰る。何かこの花について覚えがあるらしい。
 さすが、ギル。腕もたつし知識も豊富だけど、その知識を思いだすのが、古代恐竜並にかかるのは何とかして……。
 おかげで、何度危険に晒されたことか……。

「ボンジュ〜ル、おじょ〜チャ〜ン」
 ひまわりがキッドに向かって口を開いた。
 見た目も不気味だが、言葉使いも気色悪い。
 あ……背筋が冷たい……。
「誰が!おじょ〜ちゃんだ!この!変態ひまわり!!!」
 噛みつくように吐き捨てるキッド。
「オ、ソーリ〜、チャイルドガ〜ル。そのプ〜チバストを拝見して、ツイ」
「何、あんた!オレの胸がないって言いたいわけ!?」
「オ〜イェ〜ス」
 ふざけた返事を返すひまわり。
 キッドの両肩が小刻みに震え、腰に帯びた短剣が閃く。
「ひまわりの分際で、人間サマを侮辱した罪……死をもって償え……。
 この変態ひまわり野郎!!!」
 ひまわり相手に、ムキにならなくてもいいのに……。

 セルジュの冷静な心のツッコミが届く訳もなく、ひまわりを成敗にかかるキッド。抜き払ったナイフで、ひまわりの花を一刀両断、切り落とした。凄まじい悲鳴を上げて、地面に転がるひまわりの花。
 だが、目を疑う出来事はその直後に起こった。
 切り落とした筈のひまわりの花が、一瞬の内に再生して口を利いたのだ。相変わらずの調子で、「プ〜チバストガール」を愚弄しにかかる。
 完全に頭に血が上ったキッド、再び花を切り落とす。だがひまわりは、切っても切っても生えてくる。切断→ひまわりの血も凍る絶叫→復活→愚弄→切断……延々と続くサイクルに、セルジュの気が遠くなり始めた頃。

「思い出したぞ!
 そいつはマンドラモンスター!斬ったり、絶対に抜こうとするな!」
 やっと思い出したのかギル……。
 でも、もう遅いよ……。
「おりゃぁぁぁぁ!!!」
 雄猛びをあげ、キッドの両手がガッチリとひまわりの茎を掴む。
 ひまわりが口の端で薄く笑った。
 ひまわりを中心に四方の大地が引き裂かれ、大地が崩れる。
「キッド!!!」
 周囲の木々が倒れ、盛り上がった土が一瞬にしてキッドを飲み込んだ。

 崩壊する地盤!
 ギルがセルジュを抱えて、濛々と噴き上がる土煙の外へと脱出する。
 土の中に消えたキッドを追って、自分も飛び込もうとするセルジュ。逆上して前後を失っている彼を、ギルが叱り飛ばした。
 懸命に冷静さを取り戻そうとするセルジュ……その目の前で、土煙が次第に晴れて行く……。

ひまわり魔人、光臨

 土煙が晴れてゆく中、ひとつの巨大なシルエットがあった。
 でも、こんな大きなモノは、ここにはなかったはず……。
 影が次第に月光を浴びて、明確なものへとなってゆく……。
「……キッド!!!」
 ボクはキッドの姿を見つけ、叫んだ!
 影はボクの身長の7、8倍はあろうかと思われる巨大な怪物だった。
 ゴリラを彷彿させる巨大な体。全身剥きだしの筋肉に植物の蔦が覆い、手足の指は甲殻類の鋭いそれを思わせる。
 そして、ひまわりを模した金色の襟巻。
 だが、そこに首はなくそのかわり……。
「おい、鼻血男」
 えっ、一瞬それがボクのことだとは気付かなかった。
 人さし指で鼻の下を擦って見る。
「あ、血だ……」
 そう!そこに怪物の頭はなく、一糸も纏わぬ上半身だけのキッドの姿が……。
 いや、胸にふたつの小さなひまわりがある……。
「早く助けなければ、自らの怒りの感情でキッドは死ぬ」
 唐突にギルが告げた。

 ひまわりの「怪物」に取り込まれたキッドの、あまりと言えばあまりな姿に呆(陶?)然となっているセルジュに、ギルが告げる唐突過ぎる事実。
 キッドは「怒り」の感情エネルギーによって、ひまわりの怪物と一体化してしまっている。その「怒り」を取り除かない限り、キッドを怪物から切り離すことはできない。だが怪物と一体化したままでは、自らの感情の昂ぶりによって、どうやらエネルギーのオーバーロードが起こるようなのだ。
 キッドの感情をなだめ、怪物から切り離す為の、その方法とは……ギルの言葉を、粛然と待つセルジュ。

「それは、”愛”だ」
「アイ……」
「そう、愛だ。それが唯一の方法だ。
 俺は準備にとりかかる。その間、キッドの身体を守り、愛をしめせ」

 ……助言、以上で終了。
 問い返す間もなく、ギルは影の中に消えてしまった。彼曰くの「準備」に向かったのだろう。
 ただ一人、怪物<キッド>の前に取り残されるセルジュ。「愛を示せ」と言われても、どうしていいやら見当もつかない。
 そこに……地の底から響くような「声」が、聞こえてきた。

   小さいだと……
   小さくなんかないや……
   他の奴が意味もなくデカイだけだ……
   バカにしゃがって……
   みんなでバカにしゃがって!!
   コロシてやる!!!みな!コロス!!!

 怪物と一体化したキッドの猛烈な怒りは、足元にいたセルジュに向けられた!
 巨大な腕が地面に叩きつけられるのを何とかかわし、森の中を逃げ出すセルジュ。
 物音に、ヤマネコ邸からゴブリン兵が数匹、駆けつけて来た。ヤバイ、とセルジュが息を呑む暇もあらばこそ……怪物の上のキッドが、強大な火炎魔法・ファイアボールを放った。一瞬でケシズミとなるゴブリン兵。
 以前のキッドは魔法は使えなかった。だがひまわりの怪物と同化することによって、魔力が強化されたのか……。

 愛をしめせ。どうするのか未だ分からないが、思い付くことは直ぐに実行してみることした。
「君のことが好きだぁぁぁぁぁ!!!」
 あらん限りの大声で叫んだ。照れてなんかいられない。
 突然、何かの影が月光を遮った。
「ちょっとぉぉぉぉ!!!」
 慌ててその場を離れる。
 次の刹那、何の躊躇もなく怪物の足が踏みおろされた。

 ボクは、森の道なき道を走り続けた。
 後ろの方で、木々の倒壊音と地響きがついてくる。
「庭にこんな森なんて作るな!!!
 あんなひまわり!ほっとくな!!!」
 誰に向かって言うともなく叫んだ。


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