「ギル 愛と勇気の駆け落ち編」シナリオリプレイ

なつかしき面影

 「凍てついた炎」を求めて、ヤマネコの館へ潜入したセルジュ、キッド、ギルの三人組。
 ヤマネコの書斎を調べている途中、セルジュはふと、机の上に飾られた小さな肖像画に目を留める。描かれているのは、やさしそうな顔をした一人の少女――ヤマネコの養女・リデルである。
 坊主憎けりゃなんとやらで、リデルの肖像までもを、不機嫌に眺めるキッド。だが、その背後から絵を覗き込んだギルの反応は、違っていた。

「リデル……?」
 かすかにつぶやく声につられ、横に立っているギルの顔を見上げる。
 ギルは、ビックリしたような顔で、くいいるように肖像画をみつめていた。
「どうかした、ギル?」
 ボクが尋ねると、ギルはハッとなって、すぐにいつもの無表情な顔にもどってしまった。
「何でもない……」
 ピシャリと、叩きつけるようにしてそう言われると、さすがにもうなにも聞けなくなってしまう……。
「それより、貴重な時間がムダになる。他の場所をあたろう」
 きびすをかえして、扉に向かうギル。
 キッドとボクは、ぽかんとなって顔を見合わせる。
「どうしたんだ、あいつ、いきなり?」
「さあ……?」

 ギルの奇妙な反応に、きょとんとするばかりのふたり。
 だがそれも、この意外な夜の始まりにすぎなかったのである……。

唐突な再会

 階下を探索していたセルジュたちは、やがて美しく装飾をされた扉に行き当たる。
 中からは、かすかな花の香りのような匂いが漂ってくる。入ってみれば、いかにも女性の部屋らしい、かわいらしい色調でまとめられた調度品が、彼らを出迎える。どうやらここが、ヤマネコの養女・リデルの部屋らしい。
 とりあえず室内には、誰の姿も見えないようだ。この隙にと、一同が捜索を始めたその時――部屋の奥の方から、若い女性の誰何の声が響いた。慌てて身を隠す一同。

「へんね?気のせいかしら?」
 リデルはボクらに気付いていない。
 じっと息をひそめて、様子をうかがうボクの目が異変をとらえた。
 部屋中の影という影が、ゆらゆらと揺らめきはじめたのだ!
 まさかギル……?
 そう思ったとたん、影からギルがすっと現れた。
 目の前に現れた見知らぬ男に、リデルはしばし呆然とした。

 自ら姿を現してしまったギルに、慌ててその場を取り繕おうとするセルジュとキッド。だがどうごまかしてみたところで、セルジュたちは明らかに「この館に侵入した泥棒」以外の何者でもない。リデルもすぐにそのことに気付いて、悲鳴を上げて逃げようとする。
 うろたえるセルジュたち。とりあえずリデルを縛り上げて黙らせようとするが――何故かギルが横合いから手を出して、リデルを捕えさせまいとするのだ。当然キッドは怒ってギルに詰め寄るが、ギルにはギルの思惑があるらしい。

 やがてギルは一呼吸して、リデルに向け語りかけた。
「リデル… 君には幼なじみの男の子がいたはずだ。覚えているか?」
 思い当たる節があるのか、リデルは身を乗り出してギルを見つめた。
「……まさか?ギルバート?」
「なに?!知り合いなのか?」
 キッドが驚いた様子で叫ぶ。
「本当にギルだわ!なつかしい」
 リデルは、親しげにギルの手を取った。
 手が触れた瞬間、ギルを包んでいた、影の雰囲気が変わる。
「あれから、急にいなくなって。俺がどんなに心配したか……」
 感情的なギルの声だ。
 ギルの様子に不安を覚えて、キッドがあわてて口をはさむ。
「おい!目的は凍てついた炎だぜ。女なんか口説いてる場合じゃ……」
「凍てついた炎ですって?」
 リデルが声を荒げる。
「ああ、こうして君に会うまではね」
 そう答えたギルは、ボクらの知ってる、冷静なギルとは別人のようだった。

 リデルに語りかけるギルの口調は、どんどん熱っぽいものになっていく。もはや普段のギルの印象は面影もない。
 そしてカヤの外というか、完全に忘れ去られている格好のセルジュたち。どうにかして正気(というか本筋……)を保とうと、二人懸命な努力を続けてはいるが、エスカレートしていくギルのテンションは止まらない。

「俺は子どもの頃から、ずっと、君だけを思ってきた……だから……」
 慌ててリデルがギルの手を振り払う。
「急になにを言い出すの?再会したばかりなのに」
「約束したじゃないかリデル!俺と結婚してくれるって!」

 さあ大変だ。
 突然すぎる再会に加えて、いきなりすぎるプロポーズに、リデルはうろたえるばかりである。その戸惑いを、否定含みの返答ととらえて動揺するギル。まさか他に好きな男でもいるのか、それとも泥棒が気に食わないのか……焦る彼を、キッドが必死になだめにかかる。
 キッドとしては、ここはいい加減で切り上げて、早く「凍てついた炎」を探しに行きたいのだ。普段なら既にぶち切れているところなのだが、懸命に感情をセーブしつつ、ギルを説得にかかる。
 ところがそんな二人の姿を見て、あらぬ誤解を抱きかけるリデル。言い寄られた言葉には戸惑う割に、きっちりヤキモチは妬くらしい、女心は複雑なもので……。

「わたしのことをとやかく言う前に、そちらのお嬢さんとの関係を、聞かせて下さるのが筋でしょう!」
 ギルがあたふたと説明する。
「こいつはただの、仕事仲間だ。本当だ」
 キレそうなキッドを、ボクに押しつけて雄弁に語るギル。
「君みたいな美人と将来を誓ったのに、他のつまらない女に、気を取られるわけがないだろ?」
 悪かったな!つまらない女で!と叫ぶキッドの口を、ボクは手で押さえた。
「キッドが出ると、ややこしくなるだろ」
 誠意が伝わったのか、キッドはおとなしくなった。
 ボクの手には、くっきり歯型が残ったけど……。

 「美人」と言われて、とりあえず機嫌をよくするリデル。この機にと、精力的にリデルを口説きにかかるギル。
 そこへひょっこりと、リデルの侍女らしき中年の女性が現れる。セルジュたちの姿を見て、すわ泥棒と仰天しかかるが……。

「驚くことはないわ。ギルバートよ。ノエラ、あなたも知っているはずよ」
 ノエラと呼ばれた侍女は、ギルバートと聞いてすぐに察しがついたらしい。
 こわばらせていた顔もおだやかに変えて、嬉々としてギルに近づいていく。
「まあ、おとなりのギルバート様?立派になられて……」
「ああ、もう何がなんだか……」
 キッドが頭を抱えて座り込んだ。

 侍女の乱入で、もはや事態は収拾不可能な方向へと突き進んで行く。
 ギルとリデルの幼少時代を、よく知っているらしいノエラは、なつかしげに二人の思い出話を披露し始める。キッドが隣でイライラと睨んで、今にも怒鳴り出しそうな様子なのは、まるっきり気にも留めていない。
 彼女の話によれば……ギルとリデルは、当時結婚を誓い合った仲だったのだという。しかもその「約束」の話を、ことあるごとにノエラが語って回る為に、リデルには未だ縁談の話もこないらしい。ならば……と、希望に表情を輝かせるギル。
 しかし、長〜い思い出話をしまいまで聞かされたところで、キッドの堪忍袋の緒が切れた。

「ばばぁ、よおく聞きな!オレは盗賊キッド、今宵はこの屋敷の……」
 キッドの威勢のいい台詞は、侍女の勇ましいタンカにさえぎられた。
「お嬢様を狙うとはふとどきな!わたしがこらしめてやります!!」
「なに勘違いしてやがる!オレはこんなブスに用はねえぞ!」
 にらみ合う二人の間をギルが取りなす。
 ギルは侍女に言った。
「大丈夫です。リデルは俺が守ります」
「ギルバート様………」
 続けて、ギルはキッドに言った。
「今日のところは、ひとまず退こう」
「はあ?」
 キッドと侍女が、顔を見合わせる。
 二人の頭の中には、同時にひとつのことが浮かんだ。
「まさか、リデルをさらって行くんじゃ!」
「まさか、お嬢様と駆け落ちする気じゃ!」

そして……逃避行

 駆け落ち……?
 問いかけられたギルの方が、思わずぽかんとなってしまう。いくら彼でも、今そこまで飛躍するつもりはなかったのである。だが、周囲の反応は彼をはるかに上回って暴走していた。
 「駆け落ちなんて、ロマンチック!」と大喜びで、皆に知らせに走って行く侍女ノエラ。
 「凍てついた炎はどうする気だ!」と怒り狂うキッド。
 自分の意志をほとんど無視されたまま、勝手に俎上に載せられてしまったリデルも、怒り心頭といった様子だ。

「わたし、家を出るつもりないわ!」
 リデルは厳しい口調で言った。
「貧乏暮らししろって言うの?お義父様だって許すわけないわ!」
「心配するな!結婚資金と新居の頭金は、ちゃんと貯蓄してある。ハネムーンの旅費は、祝い金から捻出しよう!」
 祝い金と言うところで、ギルはボクとキッドを返り見た。
「あてにしてるぞ!」

 だがそこで、館じゅうに大音響のサイレンが鳴り響き始める。侍女が皆に事態を知らせた為らしい。
 今夜のところは、ひとまず退く決意をするギルとキッドたち。こう騒ぎになってしまったのでは、どうにもならない。リデルもほっと一安心した様子で、ギルに告げる――。

「そうね。今夜は帰った方がいいわ。今度来るときは昼に、泥棒としてじゃなくて、お友達としていらしてね」
 お友達、お友達、お友達……
 お友達、お友達、お友達……
 ギルが、お友達という言葉に、低くうめいた。
 が、すぐに立ち直り激しく言い放つ。
「いや、俺はあきらめん!」
 廊下を、ドタドタ走り回る音がする。
「急ごう!」
 キッドが脱出をうながすと、ギルが軽々とリデルをかつぎ上げた。
「連れて行く!」
「うそ、マジかよ、ギル!」
 立ちすくむキッド。
「きゃっ、おろしてよ、ギル!」
 暴れるリデル。
「何してる!急ぐぞ!」
 さっそうとマントをひるがえし、ギルが駆け出した。
「あ〜れ〜」
 リデルの悲鳴が長く尾を引く。
「ど、どうする?キッド?」
「くっ、ちっくしょー、撤退だ!出直すぞ!!」

 ……こうなってしまっては、もう後戻りは出来ない。
 リデルを担ぎ上げたまま、邸内をぶっちぎって走り抜けるギル。飛び出してくるモンスターどもを蹴散らし、疾風のように突き進む。その後を懸命について行くセルジュとキッド。猛スピードで館を飛び出し、外苑の森に逃れたころには、全員くたくたになっていた。
 ところがその時、突然館の上に花火が上がった!

 城中の人がバルコニーに、窓辺に、鈴なりになって手を振っているのだ。
 涼風に乗って、万歳三唱が聞こえてくる……。
「リデル様、おめでとうございます」
「お幸せに!」
「スウィートホームができたら、みんなで遊びに行きますね!!」
 キッドが顔をひきつらせ屋上を指さす。
 そこには、涙をこらえて微笑む、ヤマネコ大君の姿が……
「な、なりきってる、新婦の父に……」
 ボクとギルの顔も、ひきつる。
 ずっと泣きどうしだったリデルが、すっと顔を上げた。
「こんな騒ぎになってしまうなんて……」
「すまない、リデル。俺、強引すぎた」
 ハンカチでリデルの頬を拭いながら、ギルが素直に頭を下げた。
「ギル……相変わらずなんだから……」
 リデルがくすっと笑う。
 遠くの空が白みかけてきた。
「いつの間にか、夜が明けちまった」
 キッドがため息をつく。
「あ〜あ、凍てついた炎が!!」
 ギルがその朝日を指さした。
「ごらん、リデル……俺達ふたりの夜明けだ……」


  愛と勇気のギル駈け落ち編
        完結

「ギル 愛と勇気の駆け落ち編」・完


解説



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