「Kid・盗めない宝石編」シナリオリプレイ

夜の始まり

 それは、ある日母からわたされた、一冊の手帳からはじまった……。
 物置をかたづけていて、ぐうぜん見つけたのだという。
 ボロボロで、あちこちカビのはえたその手帳は、数年前に死んだ祖父の日記だった。そこには、
いつもひなたでまどろんでいた祖父の、遠い日の想い出がつづられていた……。

「…………
 おまえは まだ
 おぼえているだろうか……?
 わたしたちの出会いを
 そして、あの数々の冒険を……
 すべてが夢のようだった、遠い夏の日々
 わたしたちは風のようにかけぬけ……
 おまえは、空から落ちた
 ひとつぶの 星のかけらだった……

 ……運命のその一夜が、ゆっくりと始まろうとしていた……。
 辺境の地レジオーナ。領主・ヤマネコ大君の館に、三人の盗賊が忍び込もうとしていた。主人公セルジュに、女盗賊キッドと、その相棒の魔道師ギル。三人の狙うものは、「凍てついた炎」と呼ばれる、ごく貴重な宝石である。ヤマネコが数々の国を滅ぼし、残忍な手口で集めた財宝の中でも、最高の宝物と言われているシロモノだ。だが、それを狙って忍び込んだ盗賊たちは、誰一人戻ってこなかったと言われるいわくつきの屋敷……。
 しかもキッドは「凍てついた炎」を求めるだけではなく、ヤマネコ本人に対しても、何やら意趣があるようだ。「今日こそやつをぎたぎたにしてやる!」と、鼻息も荒い。
 暗い噂ばかり漂う、ヤマネコの巨大な館の中へ侵入することに成功した三人は、ゆっくりと探索を始めるのだった。

 そしてボクは、おそるおそる足を踏み入れてゆく。猫のようにしのびやかに、しかしさっそうと歩を進めるキッド……、影のなかを堂々と、すべるように進んでゆくギルと共に。
「運命の織り手」の大きく広げられた、その両の手のなかへ……。

 ヤマネコの巨大な屋敷は、不気味に静まり返っていた。どうやら主人のヤマネコ自身は、今夜は留守にしているらしい。
 人気のない廊下をたどり、セルジュたちはひと部屋ひと部屋、屋敷を探索していく。いかめしいパイプオルガンのしつらえられた大広間、大量の書物がぎっしり並べられた書斎・・・。
 ごくたまに、スケルトンのようなモンスターが現れる他は、動くものの影とてない、広大な屋敷。だがその静寂は、平穏を示すものでは決してないようだ。通りがかった衛兵たちが、うわさ話につぶやく。

「さて……、何か物音がしたような気がしたのだが……。お館様はお留守だから、ここに誰か人のいるはずもないか……。
 どうも、最近落ち着かなくて、いかん。南の大国、パレポリが動きだしたという情報が入ってきてから……」

 そのつぶやきを書斎の机の下に隠れて聞きながら、セルジュはつい目の前に、同じように身を屈めて隠れているキッドの、かたちのいい唇に見とれていたりする……。

少女の風景

 「生きては戻れない」と噂される屋敷のことである。そこかしこに仕掛けられた罠が、侵入者たちの訪れを待っている。
 館の地下に作られた、小さな広場の噴水からは、恐ろしい人食い魚ピランジが大量に飛び出してくる。壁面ではいかつい髭面の男のレリーフが、半ば口を開いた恰好で、セルジュたちを見下ろしている。ギルによれば、これは「真実の口」だと言う。戯れにその口の中に、手を突っ込んでみるキッド。

「いてて……、このヤロー!」
 徐々にきつくかまれているらしく、キッドは冷や汗を流している。
「これは、何か真実を口にしない限り、解放されそうにないな……」
  非常時だというのに、ギルは涼しい顔で解説にまわってる。
「キッド、何でもいいからホントのことを言うんだ!!」
 ボクの言うことにちっとも耳を貸さず、キッドは真実の口に蹴りをかました。
「この、平面髭おやじ!放せったら!」

 ミシッ、バリバリ、メキメキ……!!
 キッドは、無理矢理手を引き抜いてしまった!!

「ほら、見ろ!ウソじゃないだろ!」
 きつく歯形のあざがついた手を、高々とかかげ、キッドが勝利宣言をする。

 ひたすら不気味で恐ろしい屋敷にも、一か所だけ例外の場所がある。ヤマネコの養女・リデルの部屋……そこだけはいかにも女の子の部屋らしい、暖かさと優しさに満ちている。もっとも部屋の主の姿は、今はない。多少拍子抜けしつつも、一応室内を物色するセルジュたち。

「オルゴールか?」
 あれ……、この曲……。
「この曲は……」
 となりに立つキッドの表情が、微妙に変化した。
「知ってるの、キッド?」
「むかし、オレの好きな人がよく歌ってたんだ……」

 リデルの部屋の隣は、館の主人ヤマネコ大君の私室だ。衛兵達の話通り、やはりヤマネコの姿はない。代わりに部屋を守っていたのは、ビーナス像の飾りがついた、見事なアラベスクの鏡……「囁きの鏡」と呼ばれるその鏡の内部には、鏡のなかを自由に移動する精霊が宿っているのだという。
 問いかけるものに助言を与えるその鏡に、セルジュはキッドの過去を尋ねてみる。

 やがて、漆黒の鏡面に辺境レジオーナの風景が浮かびあがり、その上に次々と影が現れた。
 小さな子供たちに囲まれた若い娘……。子供たちはみすぼらしい格好をしているが、だれもが楽しそうに笑っている。
 そこにとつぜん、火の手があがり、武装した男達がなだれこんでくる。
 ムリヤリ連れ去られる娘と、炎のなかにのみこまれる子供たち……。
 炎をバックにしてひとりの女の子が、すすで黒く汚れた顔を涙でぬらしながら、空に向かってなにか叫んでいる……。
 少女の右の瞳が、猫のように細められて……
「やめろっ!!」
 キッドが絶叫した。

 3年ほど、一緒に行動しながらも、ついぞ知らされることのなかったキッドの前半生が、徐々に明らかにされてゆく。
 ……古い時計塔の内部を、がらくた置き場として利用しているらしい倉庫。巨大なからくり機械が、錆び付いたまま取り残された中に、得体の知れぬ古い剣がぽつんと転がっていたりする。
 がらくたの間に、ひっそりと座り込んでいる謎の老婆が、キッドの顔を見て、突然尋ねる。「おまえたちは、ヤマネコに仇なす者か?」。身構えるキッドたちに向かって、老婆は意外な昔語りを始めた。

「もう4.5年ほど前になるかの……、この館の主、ヤマネコ大君に真っ向からケンカを売った盗人がおった……。
 その盗人は、やっと十をすぎたばかりの小娘じゃった」
 ボクはハッとなって、キッドに目をやる。

「その娘は孤児での。自分を愛し、いろいろと面倒をみてくれた姉のような人のために、たったひとりでヤマネコにはむかった、ということじゃ。
 しかし、しょせんは娘ひとり。
 ちから及ばず、ヤマネコの手の者にあえなく捕らえられてしまった……。

 なんでも、娘に同情して世界中の影が、娘の逃亡に力を貸したと、当時はささやかれたものじゃが……、はてさてどこまで本当の話やら……」

「わたしは、負けた人間はキライじゃないよ。だれだって、常に勝ちつづけられるわけじゃなし。運命の女神だって、時にゃ人の子にしてやられて、歴史の歯車をくるわすもんさ。」

 老婆は、キッドにヤマネコを討て、というのか。「過去を捨てねば、ヤマネコは討てない」という謎めいた言葉を残して、老婆は姿を消す。キッドは沈黙し、ギルは相変わらずの無表情。セルジュは不安に思いつつも、ただ道を先に進むしかない……。

滅びた国の夢・前編

 宝物庫らしい部屋を発見はしたが、扉には厳重な鍵がかかっている。おそらく「凍てついた炎」はこの中だ、と推測したセルジュたちは、鍵を探して更なる探索を続ける。

「かなり前に彫られたらしいな。あちこちかすれてて、よく読めないや。

  ……わしも、そう長くはもつまい。
  せめて、栄光のアカシア竜騎士団の証をこの部屋にのこし……

 騎士団の証……??」
 いきなり扉が閉じた!!
 ハッとなって、ボクらは立ち上がる。
 ギリギリギリ……
 嫌な音とともに、部屋が微かに振動しはじめる。

「上か!?」

 館の最上階には、恐怖の仕掛けが侵入者たちを待っていた。
 何とも言えない不気味な気配の漂う小部屋は、無数の槍を生やした吊り天井を利用した「処刑室」……何人の人間がそこで殺されたのか、床の石畳の間には、どす黒い血の固まりがこびりついて取れない。
 しかし床のダイイングメッセージに残された「アカシア竜騎士団」という言葉。それは数年前、ヤマネコに滅ぼされた隣国の精鋭部隊の名前だ。現在ヤマネコの養女となっているリデルは、この国の領主蛇骨大佐の娘……セルジュたちの狙う「凍てついた炎」も、実は蛇骨大佐の持ち物であったのを、ヤマネコが奪ったのだというが……?

 「処刑室」を脱出したセルジュたちは、邸内の捜索を続け、ついに「囁きの鏡」から、鍵のありかを訊き出すことに成功する。

「お探しのカギは、今わたくしがうつしております、この書斎……。
 一番奥にある本棚の、紫の背表紙の本のなかにございます」
 鏡は書斎の映像を消すと、それきり黙ってしまった。
「どうやら鏡の精は、ほかの鏡に移動してしまったようだな」
 と、ギルが言う。
「さっそく、書斎へ行こう」
 部屋を出ようとすると、どこかから低く囁く声が聞こえたような気がして、ボクは足を止めた。
「気をつけて、彼は知っている……」
 鏡の声……?
 いったい、なんのことだ……。

 書斎で宝物庫のカギを発見したセルジュたちは、ついに宝物庫の内部に足を踏み入れる。
 室内にぎっしりと集められた、目もくらむような財宝の数々。目の色が変わるキッド、あくまでも沈着なギル。そうして、部屋の中央にしつらえられた台座には、美しく煌めく「凍てついた炎」の姿があった。

 それは、淡い真紅の光を放つ……、燃えさかる炎が、そのまま結晶と化したような……、小さな、美しい宝石だった……。
 これが……、凍てついた炎!!

 しかし、待望の「凍てついた炎」を手に取ったギルは、それが精巧に作られた偽物であることを見抜く。抜け目ないヤマネコは、本物の方は屋敷のどこか別の場所に隠したのだ。
 本物の「凍てついた炎」を探して、更なる探索が続く……。

 宝物庫の異変に気づいて集まってきたゴブリン警備兵たちを倒し、奪った謎の鍵が、館の地下への扉をひらく。
 館の最深部、警備兵の詰め所には、エスメルドと名乗るゴブリン兵士が一人、優雅に茶を飲み、読書を楽しんでいる。他の野卑な兵士たちとは、随分趣の違うインテリ肌の彼は、どうやらここの警備主任を勤めているらしい。

「なるほど。あなたがキッドさんですね?一度、お目にかかりたいと思っていました。
 まさか、こんな可愛らしいお嬢ちゃんとは……」
 言葉が終わる前に、ナイフが飛ぶ。
 顔に突き刺さる瞬間、手にした本でナイフを受け止めるゴブリン。
「噂通り、ラジカルな御人だ」

 開かなかった地下牢の鍵を、エスメルドはごくたやすく、セルジュに手渡す。
 警備主任たる者が、何故こんな真似を……不思議がるセルジュたちに、エスメルドは昔語りに語る。

「昔私がまだ若く、愚かだった頃、わが主ヤマネコ様に滅ぼされた蛇骨大佐に、お世話になったことがあるのです……。

 凍てついた炎の力を殺さないために、ヤマネコ様はリデルお嬢様をひきとられたのです。
 あの生きた、不思議な石は、お嬢様と精神的なつながりがあるようで……。
 できることなら、お嬢様をこの館から開放してさしあげたいのですが、私などの力では、とても……
 それに、あなた方がヤマネコ様を倒してくだされば、私にお咎めはありません。
 必ずや、倒してくれますよね?」

 エスメルドに「打倒ヤマネコ」を誓ったキッドたちは、地下牢へと向かう。
 牢獄の中には、老いかがまった男が一人……それも、既に正気は失っているものらしい。焦点の合わぬ目でぼんやり中空を見上げ、すすり泣きにつぶやく言葉。「栄光のアカシア竜騎士団」「リデル姫」……。どうやら彼は、滅びたアカシア竜騎士団の生き残りであるらしい。

「その爺さんには、なにを言ってもムダだろう。殻に閉じこもってしまっている」
 ギルが、キッドにそう告げた。
「なんなの?その殻って?」
 ボクは、ギルに尋ねた。
「自分の認めたくない現実から、我が身を守るためにつくる盾みたいなものだ。
 背を向けて逃げ出したくなるような、あまりに悲惨な事件を見るなり、経験するなり、したのだろう……。
 心のなかに自分だけの別の世界をつくり、そこに逃げ込んで、外の世界の一切を拒絶してしまうのだ……」
 なんだかギルの言葉に、言いようのない悲しみみたいなものが感じとられて、ボクは思わずギルを見上げた。
 ギルの瞳は、なぜかキッドを見ていた……。
 その横顔だけを、見つめていた……。


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