「影の王国・死の女神編」シナリオリプレイ

「死者の書」の契約

 「凍てついた炎」を求めて、ヤマネコ大君の館に侵入したセルジュ・キッド・ギルの三人。
 まずは手始めに、ヤマネコ大君の書斎で情報収集。「図書館」と呼んでもおかしくないほど、大量の書棚が並ぶ、広い部屋である。収められた書物のたいていは、呪われた魔道書の類であり、うかつに開くと何が起こるかわからない……訳知り顔にセルジュを脅しにかかるキッド。
 その中で、ギルが一冊の皮装丁の書物を見つけて、興味深げに手を伸ばした。
 それは『死者の書』と呼ばれる、古の魔道書だ。長らく世から失われていたのが、どうやらヤマネコの所蔵となっていたようだ。

「ねえ、開けてみたら、それ?」
 ギルは少しの間迷っていたようだったが、やがて無言でうなずくと、厚い皮の表紙をゆっくりと開いた。
 がしゃん、ぎりぎりぎり……。
 世界のどこかで、宇宙をまわすような大きな歯車が、ひとつコマを進める音がした……。
 その時なぜか、そんな気がした……。
 しかし、開かれたページには、何も記されていなかった。
「なんだ?何も書かれてないじゃんか?」
 のぞき込むキッドの声には、かすかに失望の響きがあった。
 ギルは他のページを開いてみる。
 どこも白紙だ。
「ちぇ、おもしろくないな。落書きしちゃおうか?」
 言ったそばから、キッドが落書きをし始めた。
「ヤマネコのバーカ、ターコ……」
「そのへんでやめておけ」

 ……この時は、これだけのことだと思ったのだ。
 それが後に、とんでもない事態を招く結果になろうとは、セルジュもキッドも予想だにしていなかったのである。

死者の舞踏会

 邸内をうろついていた三人が、大広間へと入りこんだ時だった。そこでは意外すぎる光景が、彼らを待ち受けていた。
 静寂に包まれた館は何処も、ほとんど無人に等しかった筈なのに、何故かここだけは華やかな音楽が満ち、たくさんの人影が行き交っているのだ。

 無数の蝋燭が広間のなかを、妖しくうつしだしている。
 大輪のバラが飾られ、床には美しい花々がまかれている。
「なんだこりゃ?」
 着飾った紳士、淑女たちが優雅な調べにのって、ワルツを踊っている。
 あぜんとするボクらの後ろで、ギギギ……と扉が閉じた。

 訳のわからない内に、いきなり大広間に閉じ込められてしまった三人。キッドが怒って、側を通りがかったメイドに食ってかかる。しかしメイドは全くの無反応……そこにキッドたちがいることにすら、気付いていない様子である。
 鼻白むキッド。その時セルジュは気がついた。
 広間で踊り続ける貴族たち、彼らをもてなす給仕やメイドたち……彼らは皆、足元が透けている。全員、幽霊。ここで行われているのは、幽霊たちの舞踏会であったのだ。
 愕然とするセルジュたちの目の前で、幽霊たちは突然、呪縛が解けたかのように、声にならない悲鳴をのこして一斉に姿を消した。

「ホホ……、わらわの夜会は、お気に召さぬかや?」
 笑い声が大広間に響く……。
 クリスタルガラスに装飾された、シャンデリアを、キッドが見上げた。
「降りてきやがれ!」
 するとふわりと、少女が舞い降りた。
「何者だ、てめー」
 キッドが疑惑の眼差しを向ける。
「わらわは死の女神リリス。ヤマネコに召還され、今はこの小娘、リデルの体にひょういしておる……」
「で、その死の女神サンとやらが、なにしに出てきたんだ?」
「礼を言いに来た。そちはヤマネコの手から、わらわを助け出してくれた。
 魂の契約書に、ヤマネコの名を記したのはそなたであろう?」

 ヤマネコの書斎にあった『死者の書』。それこそが、死の女神リリスと契約を取り交わす為の書物だったのである。白紙の書物に名を記された者の、魂を凍らせることが、リリスの務め……キッドが落書きのつもりで書いたヤマネコの名前も、『死者の書』上に著されれば、実行力をもつこととなるのだ。
 その証拠にと、リリスが懐から取り出したのは、美しく煌めく真紅の宝石。

「凍てついた炎!!」
 ボクとキッドが叫んだ。
「さすが、わらわの狩った魂を横取りし、吸収しただけのことはあるのう。
 艶も色合いも、あやつにはもったいないほど美しい……」
 うっとりと瞳を細めたリリスの右手に、黒いもやがかかっていく。
 もやは徐々に形をなし、三日月の刃を持つ大鎌となった。
 三日月が闇を一閃する。
 凍てついた炎が粉々に砕けた。
「これで、わらわをリデルとして操る、おぞましいからくりは消滅した。あやつは完全に死んだのだ」

 ヤマネコとリデル、そしてリリスとの間に、過去何があったのかは、今となってはわからない。
 ただセルジュたちが茫然としている内に……ヤマネコの魂は砕かれ、そして砕いた当人であるリリスは、キッドに冷たい微笑を向けた。
 右手の大鎌同様に、闇の虚空から新たな『死者の書』を作り出すリリス。
 ただ名前を記すだけで、望む者の魂を狩らせることができるその書物を、リリスはキッドに与えた。それが、ヤマネコの手から彼女を解放してくれた礼代わりだと言うのだ。
 『死者の書』を見つめるキッド。その姿に、セルジュは恐れをなした。キッドの手から『死者の書』を奪い取るセルジュ。

「セルジュ……なに考えてやがる?」
 ひどく落ちついたキッドの声。
「だって、キッド思いっきり、悪用しそうなんだもの」
 無言でキッドがこぶしを振り上げる。
 そのとき、大鎌がひゅんと空を切って、ボクとキッドの間を裂いた。
「なんだ?やる気か?」
 キッドが武器に手を伸ばす。
「そなたに無理強いはせぬ。わらわはただ助けてもらった礼をと思い言ったのみ」
 ふわっとリリスの体が宙に浮いた。
「魂を狩るのはわらわの勤め。純粋なわらわの使命。利用されるわけにはいかぬ」

 『死者の書』使用の権限を一度は与えはしたが、個人の欲望の為に使われるのは許さない、というのだろう。これで義理は済んだとばかり、リリスは虚空へ飛び去ろうとする。自由の身を満喫するつもりらしい。
 不安にかられるセルジュ。このまま「死の女神」を世に放ってしまっていいのだろうか?だがセルジュには、彼女を止める手だてがある訳もない。ギルに意見を求めようとして、セルジュはギルの姿が見えないことに気付いた。
 その瞬間、虚空に飛び去りかけていたリリスの動きが突然、止まった。彼女の足元にわだかまる影の中から、一本のたくましい腕が伸びて、その細い足首をとらえていたのである。

「リリス様!今宵こそ、シャドウ・エンパイアへ連れ帰りますぞ!」
 ギルが影から飛び出してきたのだ。
 しかし、言葉づかいが普段と違う。
「影狩りのギルか?」
 リリスは美しい顔をゆがめ、ギルを見おろした。
「シェイド・ミラージュも、よほどの人材不足と見える。キサマごときに、わらわが捕まるはずもなかろうに……」
「こちらの世界に来て、もう数百年……貴女の力も弱っておいでのはず!」
「フッ……そう思うか?」
 リリスは素早く鎌を振り下ろす。
 鎌が空を裂く。キッドはその風圧で吹き飛ばされてしまった。
 駆けつけようとして、足がすくむ。
 キッドの胸から、オーロラの光がもれている!
「どうした?はやくしないと、仲間の魂を凍らせてしまうよ。ギル」


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