「帰郷・灯のシェア編」シナリオリプレイ

少女の幻影

 「凍てついた炎」を求めて、ヤマネコ大君の館へ潜入する、セルジュ、キッド、ギルの三人。
 テラスから館内部へ侵入した三人は、探索ルートを廊下の左右どちらにとるか、しばし悩む……その間、何気なく視線を巡らせたセルジュは、ふと、あるものに気づく。
 それは、光――天井近くの飾り窓に、ほのかな青い光が灯っているように、見えたのである。
 セルジュは思わず目を凝らしたが、その時には窓にはもう何も、見えなくなっていた。気のせいだろう、と思い直すセルジュ。既に先に行きかけているキッドたちを、慌てて追いかける。去り際にもう一度、飾り窓に一瞥しつつ……

 光は、あった。
 ほのかな、
 星明かりにも気おされそうなくらい、ほのかな光。
 いや、それは光っているわけでは、なかった。
 全くの闇にも関わらず、細部まで妙にはっきりと見えるその『モノ』を、光っていると勘違いしただけだ。
 闇の中にわだかまっていたそのモノは、直接ボクの目に、いや、頭の中に、その存在を訴えていたのだ。
  ……古風な僧服をまとった
           少女の姿として……

「…………
 ……来てしまったのね……
 とうとう……」

 夢や幻などではなかった。先に行きかけていた筈のキッドとギルも、異常に気づいて、いつの間にかセルジュの背後で、同じように息を呑んでいた。
 幽霊……。
 死者の姿を見ること自体は、彼らにとってそれほど珍しいことではなかった。綱渡りの盗賊稼業の中では、様々な体験に出くわす。一部の魔術は死者の姿を呼び出すことを可能としているし、その内の幾つかの術はギルが実際使用してみせたことも、かつてあった。
 「慣れている」筈の彼らさえもがだが、思わず身を堅くしたのは、ひとえにその「少女」の内部に込められた、強く重い悲しみ――「業」とでも呼べそうなものの、深さに圧倒されたのである。
 少女の姿はすぐに消えた。だが、一同を包む異様な、不吉な予感。

「行くぞ」
 いつになく寡黙なキッドの顔が青ざめて見えたのは、月明かりのせいだけじゃなかったのだと、その時のボクは気付かなかった……

死を招く石の海

 広大な邸内を探索して行くセルジュたち。
 ガラクタ置き場のような倉庫部屋では、謎の老婆がキッドを見つめて、不思議なことを語った。
 彼女の過去――自分を育ててくれた姉のような人を連れ去られ、復讐の為に、たった一人でヤマネコと対決する為に館に潜入した、10歳の頃のキッドのエピソード。
 何故そんなことを知っているのか、問い詰める間もなく、老婆は姿を消してしまう。

 不気味に沈黙に沈む館。老婆が去った後は、誰とも出くわすこともなく、セルジュたちはあっさりと、宝物庫にたどりついてしまった。当然、厳重に鍵がかかっているものと思われたが――キッドがヘアピンで鍵穴をこじあけただけで、すんなりと扉は開いてしまった。
 手ごたえのなさに、いささか拍子抜けしつつも、宝物庫に足を踏み入れる一同。そこは、通常考えられる「宝物庫」「財宝置き場」とは、一線を画した空間だった。

 その部屋は巨大なジオラマ……
 つまり、財宝で形作られた精緻な海の模型で一面占められていたのだ。
 白く砕ける水晶の波頭、
 渓谷のごとくそそり立つメノウのうねり、
 硬質の光をぬらりと宿すヒスイの岩礁。
 その上に、何やら意味有りげな笑みを浮かべた、雲母のうろこと白金の髪を持つ、真珠のセイレーン。
 そして、虚空をつかみながら今まさに波間に没しようとする、これは材質の良く分からない、リアルな一本の手。
 嵐の海の一瞬をそのまま結晶化させた様な逸品であるが、美しさよりはむしろその生々しさ、凄惨さがきわだっていた。
 が、よりボクらの目を引きつけたのは、セイレーンがにぎる石。
 ぬらり、と血の色を光らせる芥子の花のような形の結晶だった。

 凍てついた炎を目にして、色めきたつキッド。さっそくジオラマの上に足場を組んで、炎の奪取にとりかかる。
 セルジュはどうも、いやな予感がしてならない。場に漂う「違和感」のようなものが、神経に障って仕方がないのだ。だがキッドは既にやる気満々である。不吉な予感をおさえつつ、準備を手伝うセルジュ。
 組みあがった足場に難なくよじ登ったキッドは、真珠のセイレーンから炎を外す。――瞬間、セイレーンのかぎ爪が伸びて、キッドの腕に喰いこんだ!
 真珠の歯車を音高く軋ませながら、セイレーンが動き始めたのである。やはりこの宝石のジオラマそのものが、罠だったのだ。

 身体中に水銀の血を通わせたカラクリ仕掛けの番人は、その任を果たすべくふとどきな侵入者へ向かい無機質な動きで襲いかかる。
 同時に、まるで凍っていた時間が溶けだしたかのように貴石の海は現実の海と化した。
 砕けた水集の波頭がキッドを岩礁から引きはがそうと襲いかかる。
 たまらず海に転げ落ちるキッド。
 それを追った僕の視線は、ふと、妙なものに引き寄せられた。
 それは例の『手』だった。
 しかしそれは『手だけ』ではなかった。
 それは、その根もとに持ち主の身体を持つ、早い話、一個丸ごとの『死体』だったのだ。
 …………
 恐らくはこの仕掛けに挑んだのであろう死体は、次の犠牲者が来るまで凍った時間の中で虜となっていたらしい。

 ジオラマの海に溺れかけているキッドに、セイレーンがまっすぐ襲いかかる。ギルが銀の針を撃ち出して、その両眼を射抜くも、カラクリのセイレーンはびくともしなかった。
 仕掛けの中枢は、他所にある。直感して捜すセルジュ。――セルジュはもともと、このジオラマに対して、何とも言えない違和感を感じていたのだ。
 それはあの、海中に半ば没している死体。他のすべては「発動前」は宝石でできていたのに対し、死体ははじめから死体のまま、凍った海から腕を突き出していたのである。

「ギル!死体だ!あの死体を撃って!」
 ギルは問い返すこと無しに、すかさず、すでに呪を唱え終えておいた衝撃波の球を撃ち出した!
 周囲の海水と共に派手に砕け散る死体の頭!

 ――変化は一瞬で訪れ、しかも劇的だった。
 海は元の宝石に戻り、セイレーンも動きをぴたりと止めた。ジオラマにかけられた呪文が、犠牲者の意識に憑依して、この大掛かりな仕掛けの「鍵」となっていたのである。しかも罠にかかった獲物の目から、仕掛けの中枢をごまかす役割もしている。ギルはしきりと感心しているが、セルジュは胸の悪い思いでいっぱいだった。
 何とか助かったキッドは、苦しげに水を吐きつつも、手にはしっかりと「凍てついた炎」を握りしめていた。
 目的のものは手に入れた。さっさと館を出ようとする三人。ところがこの時には既に、館は「変貌」を遂げ始めていたのである……。

閉ざされた館

 ……三人は、延々と廊下を歩き続けていた。
 もうこれ以上、館に留まっている必要はない。侵入ルートを逆に抜けて、テラスから庭へ降りる。そのつもりでさっきから、ずっと廊下を歩いている。なのに、何故かあるべきところに、テラスが存在していないのだ。石造りの廊下が、ただ延々と続いているばかり……。
 訳も分からず歩くセルジュも、キッドも、次第に神経がささくれ立ってくる。

「また、ここだ」
 キッドが、何か怒るような調子で呟いた。
 そう、先へ先へと進んでいた筈のボクらの前に、見覚えのある樹が、また現れたのだ。
 もちろん、その間テラスらしいモノは、どこにも見あたらなかった…………
「どういうこと!これ!こういう理不尽なこと大嫌い!」
 キッドがヒステリックに叫ぶ。
 うるさい!
 ボクに言われたって・・・!
 だいたいボクはこんなとこへなんか、来たくなかったのを、こいつが無理矢理………!
「廊下の空間を閉じて堂々めぐりさせ、歩いてる奴の神経を消耗させる、か…
 やな仕掛けだな………
 おまけに廊下の壁が微妙に歪めてある。常人なら発狂するかもな……」
 ボクとキッドの首筋にすぅっとのびたギルの手が、何かのツボを押したらしい。
 ボクはみるみるうちに、気持ちが落ちついてくるのを感じた。
 見ると、すでにキッドも落ちつきを取り戻し、情けなさそうにうつむいている。
「館の主は、俺らにこのまま帰って欲しくないらしいな。どうやら」
 静かに呟くギルに、キッドが顔をあげ、眼前をきっと睨んで答えた。
「上等だ………ヤマネコめ……
 そんなに会いたいなら、こっちから、会いに行ってやる……」


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